61歳から、エクセルVBAによる業務自動化プログラムの事業をスタートさせた氏家洋一さん。現在は業務自動化プログラマーとしてオーダーメイドの仕組みを構築しながら、大好きなロックミュージシャンのライブを観に毎年海外へ行く日々を送っています。
そんな自由な生活の背景にあったのは、
定年退職目前で味わった挫折と、環境の変化を前向きに受け止めた経験でした。
第二のキャリアを切り拓いた、その歩みに迫ります。

自動化で、自分らしく使える時間を増やす
ーー業務自動化プログラマーとは、どのようなお仕事なのでしょうか?
ひとことで言えば、エクセル上にプログラムを構築し、日々の業務を効率化する仕事です。お客様の業務内容や業界に合わせて、完全オーダーメイドでプログラムを設計・作成しています。日々の書類作成や各種SNSからの顧客リスト作成をはじめ、あらゆる業務を自動化することができます。
ーー効率化が大事とはよく聞きますが、なかなか予算も時間もかけられない人も多い気がします……。
エクセルは誰もが使っている身近なツールです。特別なシステムを導入するわけではないので「うちはITが弱くて……」というクライアントさんでも、低コストで無理なく導入できます。
特に、ひとり社長などは、事務に時間を取られてしまう人もたくさんいらっしゃいます。しかし、本来大切にしたい意思決定や営業活動、プライベートの時間まで圧迫されてしまっては本末転倒です。
そのため、自動化できるところは仕組みに任せていただく。
そして、浮いた時間を事業について考える時間や、人と向き合う時間など、より本質的なことに使ってもらえたらと思っています。

ーー具体的には、どのようなケースに対応できるのでしょうか?
基本的に、あらゆる分野に対応しておりますが、一般的な例では、複数の顧客に対してのメールの一括送信、売上集計など、事務作業のための仕組みがあります。
また、製造業や工場では、バーコードを読み取って部品の入荷・検査・出荷日時を自動記録したり、工程管理システムのCSVデータを加工して不良集計表を作成したりと、より専門的な業務にも対応しています。足場の強度計算書を自動作成した事例もあります。

ーー プログラムをつくるうえで、大切にしていることは何ですか?
お客様の現在の仕事の流れを変えないことです。新しいシステムを導入するとなると、どうしてもこれまでのやり方を変えなくてはならないようなイメージがありますが、私の提供するプログラムでは、その必要が一切ありません。
プログラミングの際、まずはお客様の業務の流れを徹底的に把握することから始めます。お客様の隣に座って、仕事の様子を見ながら実際の業務を説明していただき、「どんな順番で、何を、どう判断しているのか」を一つひとつ聞き取っていきます。
それを整理し、その流れをそのままプログラムに落とし込みます。だから、マニュアルがなくても直感的に使える。担当者が変わってもスムーズに引き継ぎもできるようになります。誰が見ても分かる仕組みだから、基本的に保守契約も必要ありません。
年に4~5回は海外に。自由な第二の人生が歩む秘訣
ーー現在は、仕事をしながら海外旅行も楽しんでいるようですね。
若い頃から静かめのロック・ミュージックが好きでした。会社を定年退職したこともあり、ライブを観に行きながら、観光もするという生活を送っています。正直な話、「今見ておかないと、もう見られなくなるかもしれない」という年齢の方もいますから(笑)。
2026年の8月には、アメリカでアリソン・クラウスというアーティストのライブに行きます。その前にアラスカも経由する予定です。観光地は、自然が豊かな所が好きですね。今まで旅した中で一番印象に残っているのは、カナディアンロッキーです。1回の旅行が月単位になるので、年に4~5回、1年の4分の1ほどは海外で過ごしています。


ーーすごい生活!お金はどのように貯めたのですか?
現在の事業収入に加え、会社員時代からの投資で得た資産も現在の生活の土台になっています。若い方には特に、所得の一定額を投資に回しておくことをおすすめしたいですね。
私が取り組んできたのは、「中リスク・中リターンのリスク資産」と呼ばれる、いわゆる株式インデックスファンドです。最低でも10年、長期目線で資産を作れば、ほぼ失敗することはないと思っています。最近では、知り合いに投資の考え方をレクチャーすることもあります。
ーー誰もが羨む生活ですね。
人生の中で、今が一番いい時かもしれません。
ただ、お金があれば幸せ、というわけではありません。「不安要素がひとつ減る」というだけのことです。お金で本当に大事なのは使い方だと思います。自分が本当に楽しいと思えることに使う。新しいことを学ぶ。刺激を受ける。健康を保つ。
そうしたことにお金を使えるようになれば、自然と幸せな状態に近づいていくと思います。
定年間際の人事異動が、人生の転機に
ーーエクセルでのプログラミングに出会ったきっかけは何だったのでしょうか?
会社に勤務していた55歳のとき、別の事業所へ異動となったことがきっかけでした。
それまではメカ制御のプログラム開発を担当していましたが、異動先では、プログラム開発ではなく、開発のための品質管理資料の作成を担当することに。とにかく大量の資料を扱う部署で、その多くがエクセルで管理されていました。当時の私は、エクセルといえばSUM関数くらいしか知らないまったくの素人。そこから必死に勉強して覚えました。3か月ほどかけて、さまざまな関数を学び、式を組み、作業の手間はかなり減らせるようになりました。
でも同時に「そもそも、こんなことを毎回手作業でやる必要はあるのか?」という疑問も湧いてきたんです。そこから、“効率化”への意識が一気に強まりました。
ーーそこで「自動化の専門家」への道がスタートしたのですね。
異動については「飛ばされた」と思いました。職場環境についても、食堂もあって設備も整っていた以前の事業所と比べると、ないものばかり目についていましたね。でも、ある時から「愚痴を言っても何も変わらない。だったら、今の環境の良い所を探そう」と思うようになりました。
そこから、半ば無理やりでしたが、必死に探しました。そうして半年ほど経ったころ、「異動は、人生の中でもかなり良い転機だった」と本当に心から思えるようになったんです。
環境が変わったからこそ、新しい視点を持てた。
エクセルに出会い、業務改善の面白さを知り、自分の可能性が広がった。
あのとき、愚痴を言い続けていたら、きっと今の自分は無かっただろうと思います。人生は、自分から変わらないと何も始まらないのだ、と学んだ出来事でした。

ーー定年退職後、起業を決意した理由は何ですか?
59歳になるときに、1年早く定年退職しました。その後、派遣でExcelプログラミングの仕事を探しましたが、300件以上応募してもなかなか決まらず「それなら自分でやろう」と起業を決めました。仕事は自宅のパソコン一台で始められるため、大きな初期投資もありません。「2年間仕事がなければやめる」と期限を決めてスタートしました。Excel VBAには需要があると感じていましたが、実際に事業を始めてみると、仕事を発注してもらう難しさも実感しています。この点は、これからも成長していきたい部分ですね。
ーー難しさを感じる部分もありつつ、起業して良かったことは何でしょうか?
自分の可能性が広がったことでしょうか。性格は大きく変わりましたね。先日、会社員時代の同僚と飲みに行ったんですが、 「ずいぶん変わったな」と驚かれました(笑)。
特に変わったのは、人との接し方だと思います。名刺交換ひとつとっても、会社員時代は「相手が持ってくるもの」という認識でしたが、今はとにかく自分から声をかけています。自分から動かなければ何も始まりません。以前、初対面の人との雑談なんてできなかったのに、今では、自然に話せるようになりました。
会社員時代は出会えなかったような人々との交流もできて、人間関係の輪も広がりました。昔だったら選ばなかったようなカシミヤのコートも着てみたり。そうやって少しずつ世界が広がっていったのも、起業を通して自分自身が変わったからだと思っています。
氏家洋一
(うじいえ よういち)
1955年生まれ。宮城県出身。
大学卒業後、開発会社にてプログラミングに従事。2014年富士フイルム株式会社を定年退職、2016年に自動化本舗を立ち上げる。現在は神奈川県・小田原市を拠点に活動中。
自動化本舗
https://automated.jp

55歳で出会ったエクセルを一から学び、業務効率化を追求し、事業として形にしていった氏家さん。一見マイナスに思える出来事の中にも、プラスの種を見出し、自由な人生を獲得していく姿が印象的でした。

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